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搬送波位相測定値による精密測位の理論及び解析処理
Precise positioning theory and analysis with carrier-phase measurements

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A.4.3 パラメータ推定の手法
A.4.3.1 最小二乗法
A.4.3.2 カルマンフィルタ


A.4.3 パラメータ推定の手法

ここで後の説明で必要になるので精密測位に使われるパラメータ推定手法として最小二乗法およびカルマンフィルタについて簡単に紹介する。式の導出や詳細については特に説明しないので適当な文献を参照のこと。



A.4.3.1 最小二乗法

精密測位において最も普通に使われるパラメータ推定方法は最小二乗法である。精密測位の観測モデルは非線形の場合が多いので普通非線形最小二乗法が使われる。非線形最小二乗法では未知パラメータの近似解があらかじめ与えられることを仮定してその近似解の周りで観測モデルを線形化して解く。

未知パラメータを、観測モデルを、観測量をとする。ここで未知パラメータの近似解をとし観測モデルが近似解の周りで十分に線形に近いと仮定すると、観測誤差をとして、

と書けるから、未知パラメータの最小二乗推定値は以下で求めることができる。

(A.4.18)

ここで、は計画行列、は重み行列であり以下で表される。


は観測の観測誤差標準偏差であり、ここでは各観測誤差間が無相関であることを仮定しているが相関がある場合はの非対角項の考慮が必要となる。また最小二乗推定値の共分散行列は以下で求められる。

非線形最小二乗法においてあらかじめ与えられる近似解の精度が悪い場合や観測モデルの非線形性が強い場合、推定値を再度近似解と置いて逐次近似計算により推定値の精度を改良する場合がありこれをGauss-Newton法と呼ぶ。この際条件によっては上手く収束しない場合がありその場合は様々な正則化手法を適用する必要がある。



A.4.3.2 カルマンフィルタ

最小二乗法では全観測データを一括処理して推定値を求めるが、カルマンフィルタでは観測データを観測時刻毎に処理することにより逐次的に推定値を求める。

カルマンフィルタでは観測更新則と時間更新則と呼ぶ手順を交互に適用して推定値を更新する。観測時刻における未知パラメータ推定値を、推定値共分散行列をとし観測更新前後の値をそれぞれをつけて表す。観測時刻に得られた観測量を、計画行列を、観測誤差共分散行列をとすると観測更新則は以下で与えられる。

(A.4.19)

ここではカルマンゲインと呼ばれる。また計画行列は更新前推定値で偏微分をとる。なお観測モデルの非線形性が強い場合は上記を繰り返して解を改良する場合がある。観測時刻からへの時間更新則は以下で与えられる。

(A.4.20)

ここでは未知パラメータの時間微分、は状態遷移行列、はプロセスノイズ行列である。ここでは未知パラメータの時間発展モデルに数値積分を使う例を示しており、これを拡張カルマンフィルタと呼ぶ。

時間更新則により得られた観測時刻における未知パラメータ推定値と推定値共分散行列に再度観測更新則を適用し推定値を更新する。以上を繰り返すことにより逐次的に観測時刻毎の推定値を求めることができる。

最小二乗法では原則として全観測データが得られてから処理するのに比較しカルマンフィルタでは一部でも観測データが得られたその時点で推定値が得られるためリアルタイムの推定に適している。またカルマンフィルタは時間変動する未知パラメータの推定に向いており例えば時計誤差や対流圏遅延パラメータの時間変動を Gauss-Marcov過程等の確率論モデルで表して推定することが容易である。

カルマンフィルタはその原理上、推定開始後初期の推定精度が悪く、収束に時間がかかるという問題が有るが、これを改善するため、再度時間を逆方向に遡ったフィルタを適用したり、スムージングと呼ぶ手法を使って推定値の精度を改良する場合がある。



A.4.2 精密測位のモデル A.4.4 相対測位

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