日記・備考録
Diary/Memorandum

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2011/02/01〜

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2011/01/29

さて、昨日書いた「みちびき」の疑似距離オフセットについて、その原因を少し考えてみる。一番可能性が高いのはQZSS航法メッセージのSVクロックパラメータの時系がGPSTからずれている可能性である。時系は測るコードによっても違うし基準を何にとるかによっても違うので複数システム間での取扱はとてもやっかいである。ということで少しIS-QZSS (1.1) から時系関係の記述を探す。

> 3.2 他システムとのインタフェース
> 3.2.1 時刻系
> 3.2.1.1 GPSとのインタフェース
> QZS及びGPS衛星のSVクロックは、共にGPS時刻系 (GPST) に対するオフセットが管理されており、
> そのオフセットの大きさは送信する航法メッセージに含まれるSVクロックパラメータで補正される。

ということでQZS衛星のSVクロックパラメータもGPSTに対するオフセットとして管理されている様だ。でも、

> 6.3.2 SV クロックオフセット補正のユーザアルゴリズム
> 基本的には、適用文書(1)及び(2)、(3)と同一であるが、以下の点で異なる。
> QZSの時刻軌道は、L1C/A信号とL2C 信号の電離層フリー線形結合(以下「LC」と表現する)によ
> る仮想的なLC 擬似距離によって、推定及び予報される。推定の対象となる点は、QZS のL 帯送
> 信アンテナのLCアンテナ位相中心である。
> 本アルゴリズムは、LC アンテナ位相中心において推定予報されたLC-SVクロック t_sv と、GPST と
> のオフセット値との関係を求める際において適用される。1 波ユーザや2 波ユーザは、本項並びに
> 6.3.3 項又は6.3.4 項に示す各QZS 信号に対応したそれぞれのSVクロック補正を行う必要がある。
> 下記の一連の式は連立している。すなわち、t を求めるためにはt を使用して Δ t_sv (t) や Δ t_r (t) を
> 求める必要があるが、それぞれの大きさは1ms 以下であるので、Δ t_sv (t) や Δ t_r (t) の t に対する
> 感度は無視できる。
> t = t_sv - Δ t_sv (t) = t_sv - Δ t_c (t) - Δ t_r (t)
> t : 3.1.4.1 項で定義したQZSST
> t_sv (t) : QZS 信号がLC アンテナ位相中心から送信された時のLC擬似距離時刻
> Δ t_sv (t) : t_sv (t) のQZSSTに対する時刻オフセット
> Δ t_c (t) : t_sv (t) のQZSSTに対する時刻オフセット(SV クロックのみに起因する部分)
> Δ t_r (t) : t_sv (t) のQZSSTに対する時刻オフセット(相対論効果のみに起因する部分)

とある。下の一連の式では、SVクロックはQZSSTに対する時刻オフセットである様に読める。これは、3.2.1.1および6.3.2 5行目と矛盾している。GPSTとQZSSTの差 (GQTO) が無視できるほど十分に小さく管理されている可能性がない訳ではないが、通常は無視できないはずだし、通常のL1C/AユーザはGQTOパラメータを得る手段が無いので、以上をそのまま適用するとGPSとQZSSの混合測位が不可能になってしまう。多分この箇所は仕様書の誤記で上の「QZSST」は「GPST」の間違いではないかと思う。

> 6.3.4.1 L1C/A 信号の内部信号群遅延誤差の補正
> (Δ t_sv) _L1C/A = Δ t_sv - T_GD
> T_GD : サブフレーム 1 による与えられる。

Δ t_svがL1C/AとL2Cの電離層フリー線形結合で与えられるかどうかに関わらず、L1C/Aユーザは単純にT_GDを引けばよい。

ということで 6.3.2の (多分) 誤記は気になるが、仕様上問題になりそうな部分はない。厳密に言うとQZSSのエフェメリスはGPSTベースではなくQZSSTベースで規定されている可能性が高いが、GQTOの大きさが1μs以下であればエフェメリス計算への感度は十分小さい。また、実は、受信機に起因する疑似距離バイアスの可能性も考えられるのだが、ここでは受信機側で十分な考慮がなされており、無視できるとする (L1C/Aの場合は設計上考えにくいが、ローカルのGPS用コード生成部とQZS用コード生成部が別回路になっている受信機の場合は、受信機システム間バイアスの考慮の必要がある。既存回路をなるべく維持したまま、回路追加で対応した様な場合問題になるかも。)

しかし、時系、座標系、TGDやISCについて十分な理解の上で実装してないとどこかでミスしそうな危うさはある。

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2011/01/28

OSQZSS: オープンソース準天頂衛星 (QZSS) 受信機, 観測データの公開 (5), 2011/01/28

「みちびき」の観測データが公開されている。今のところパブリックに入手できる「みちびき」の観測データはないはずなので大変貴重なデータである。現在、評価用にJAXAからお借りしている受信機はあるけど、このデータは勝手に公開できないので。
試しにRTKLIB 2.4.1のSingleモードで解析してみた。QZSSなし (左)・有り (右) の差を見るため、かなり強引に仰角マスクを40度に設定。v.2.4.1で導入したGDOPマスクは30である。またunhealthyな衛星を解に編入する特別なオプションを使用している。測位解のavailabilityが向上していることが分かる。

 
Single Point Solutions without QZSS (Left) and with QZSS (Right) (El Mask=40deg)

でも、「みちびき」にはまだ色々と不可解な点が残る。例えば以下は同一のデータを使った仰角マスク10度のGPS+QZSSの単独測位で「みちびき」の疑似距離残差を出力させたもの。


Pseudorange Residuals (upper) and Elevation, C/N0 (lower) of QZSS

3m程度のオフセットが見える。あと今日見つけたのは、「みちびき」航法データのTGDが時間的に結構大きく変動しているところ。TGDはもともと衛星のハードウェア遅延に起因するので、一般に時間的に安定な値をとらないとおかしい。これらを総合してみると、多分「みちびき」の地上軌道・時計決定系にまだ問題が残っているのではないか。

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GPS World, European Commission Report on Galileo Estimates $1 Trillion in Europe Depends on SatNav, January 18, 2011

しばらくGNSS関係のニュースをチェックしていなかったら、またGalileoの予算超過の話が出てたみたい。今のところIOC 18機 は3.4B EUR (3854億円) は変わらないみたいだけど、FOC 30機の構築には追加費用1.9B EUR (2154億円) が必要とのこと。またIOC完成はやはり2014年から2015年にスリップしそうと伝えている。
ここまで来たら追加費用もEUの公的資金で出さざるを得ないと思うけど、スケジュールはまだ遅れそうだなあ。

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RTKLIB 2.4.1引き続き。

予定ではv.2.4.1は昨年末にリリースだったのだけど、予定通り遅れて今のところ2月末かなあ。マイナバージョンアップなのでそんなに追加機能は無いのだけど、予定はTODO List参照。しかしGUIの操作性改良とか有る意味どうでもよい機能に時間がとられて、コアモジュールのアルゴリズム改良とかに工数が回っていかないのはまずい。あと機能増えすぎて、リリース前のテストケースをどこまで流せば良いか悩むところ。でも、もはや系統的なテストは一人ではとても無理で、βテストを一般利用者にお願いすることを本格的に考えなければいけないのかもしれない。
SDRフロントエンドを含めた大幅な機能拡張を含むv.2.5.0のリリースは今年春から夏と宣言していたのだけど、これもまたずるずると遅れるかもしれない。

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2011/01/13

RTKLIB 2.4.1のQZSSとJavad Raw (GREIS) 対応。やっと安定して動くようになった。下のモニタ画面で分かる様にこの例ではL1C (RINEXコード"L1L") を使っている。また、現在QZSS-1 (J1) はhealth flag=0x20を送っているので、RTKNAVIとRTKPOSTにunhealthyな衛星を使う特別のオプションを追加している。しかし、QZSSってホントに天頂にずっと居るのね。
なお本作業のために現在JAXA殿からお借りしているQZSS対応Javad DELTA受信機を使用しました。

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2011/01/08

slashdot, ついに日本版GPSシステム構築へ?, 2011/1/6

どうも聞くところによると読売の記事はガセネタで、まだ何にも決まっていないというのが本当の様。でも、この記事をきっかけに日本独自の衛星測位システムの是非が議論されることは良い事だとは思う。

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2011/01/06

日本経済新聞, 日本版GPSを海外開放 韓国・豪州に 文科省など、市場開拓へ, 2011/1/6

> 文部科学省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は日本版測位衛星「みちびき」のデータ利用を海外に開放する。
> 韓国、オーストラリアの宇宙機関などと協定を結び衛星の信号受信端末を無償貸与。現行の全地球測位システム
> (GPS)に比べ位置精度が10倍以上高まる利点を生かし今春から無人農機の自動運転などに幅広く応用しても
> らう。測位衛星による将来の海外市場開拓へ布石を打つ。
> ...
> みちびきは昨年9月に打ち上げたが、1基では1日8時間しか日本上空にない。政府の宇宙開発戦略本部は2012
> 年度以降、さらに2基を打ち上げて24時間日本をカバーできるようにする方針だ。地上の受信端末や関連機器、
> 情報処理ソフトウエアなどを含めると年数千億〜1兆円の市場を生み出せるとみている。
> ...

とのこと。この記事では7機体制の話は触れていない。でもいつの間にかQZSSが「現行GPSの10倍精度」となってしまっている。これって全く嘘という訳ではないけどhypeぎみ。予算獲得にはそういう印象操作が重要なことも分かるけど。

しかし、なんか最近QZSS関係の新聞記事しか貼っていない気がする。まあ、裏で少しは色々と進んでいるのだけど。

補足: 産経のQZSS関連記事も見つけたので貼っておく。この記事だと「4機体制とすれば最低でも今後2千億円程度が必要」と読売の記事と食い違っている。

産経ニュース, 日本初の測位衛星「みちびき」実証実験始まる, 2010/12/26

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2011/01/05

Yomiuri Online, 日本版GPS、衛星7機体制へ...精度10倍に, 2011/1/5

> 政府は4日、日本版GPS(全地球測位システム)を構築するため、準天頂衛星「みちびき」の同型機と
> 静止衛星を、2014年から2年程度の間に集中的に6〜7機打ち上げる方針を固めた。
> アジア太平洋全域を対象に、現在のGPSより10倍高い精度で測位できる体制を整える。打ち上げなどに
> かかる計2000億円規模の費用には民間資金を活用する方針だ。
> 政府の宇宙開発戦略本部(本部長・菅首相)が、原案を固めており、8月をめどに計画を決める。財政難の
> 中、政府は民間の資金とノウハウを活用するPFI法の改正案を次期通常国会に提出し、衛星製造をPFI
> の対象事業に加える方針だ。
> 日本独自のGPSを構築するのは、米国のGPSの本来の目的は軍事利用のため、有事などの際に民間向け
> の電波の発信までも第三国に妨害され、市民生活や経済活動が影響を受ける恐れがあるからだ。
> 日本は10年9月、独自開発した準天頂衛星の1号機「みちびき」を打ち上げた。同型機も含め3機以上に
> すれば、1機は常に日本上空に位置することになる。米国が運用するGPSと組み合わせれば、カーナビゲ
> ーションなどの精度は現在の10倍高まり、誤差は1メートルまで小さくなる。

とのこと。どこまで確実な情報なのかは良く分からない。PFI法についてはWikepedia参照。GalileoのPPP (Public-Private Partnership) が頓挫した様に、ちょっと考えると測位衛星が事業として成り立つ気がしないのだが、本当に2000億の民間資金が集められるのだろうか。また追加6〜7機の衛星の開発・運用が本当に計2000億円規模で済むのであろうか。もし本当ならこれで10年くらいは食い扶持に困らなくなる気がするが、まだ今後の進展を見守る必要はある。

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2011/01/01

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくご愛顧を。

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〜2010/12/31


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